2020年2月28日金曜日

天空の城ラピュタの世界を訪ねて 第2回 カナーヴォン城


ウェールズが英国を構成する一国と見なすかイングランドの一部と見なすかは現在でも意見が分かれている。その理由はこの地の歴史に由良する。この地域は山が多く、攻めづらい上に貧欲な土地の為、アングロ・サクソン人に追われたケルト人が住み着いた事がウェールズ人の祖先とされる。彼らは独自の言語と文化を今なお持っている。しかし、中世の動乱期において辛うじて他民族からの侵略を跳ね除けてきたウェールズ公国も時のイングランド王エドワード1世により征服されてしまう。エドワード1世はこの地の統治を盤石にする為、10個の城砦を築いた。そのうちの4つが現在世界遺産に登録されている。今回紹介するカナーヴォン城(Caernarfon Castle)のその内の1つだ。

因みにこのカナーヴォン城は映画「天空の城ラピュタ」においてヒロインであるシータが軍によって囚われの身になったティディス要塞のモデルと言われている。

アクセス



ウェールズの北西に位置するカナーヴォンの街には定期列車が走っていない為、ロンドンからの特急列車も停車するバンガー駅から路線バスで移動するルートが便利だ。
バンガー駅のバス停から5,5C,X5系統のいずれかに乗車し、カナーヴォンで下車する。乗車時間は約30分。



開館時間


3月1日〜6月30日
9:30-17:00
7月1日〜8月31日
9:30-18:00
9月1日〜10月31日
9:30-17:00
11月1日〜2月29日
10:00-16:00 (月曜日〜土曜日)
11:00-16:00 (日曜日)
12月24日〜26日、1月1日は閉館

※最終入場は閉館時間の30分前

入場料


2019年度(2019年4月〜2020年3月)
大人:£9.90
学生:£6.00
シニア(65+):£8.00

2020年度(2020年4月〜2021年3月)
大人:£10.40
学生:£6.30
シニア(65+):£8.40

カナーヴォン城



ウェールズ北西部に位置するカナーヴォン城はエドワード1世の命により47年にも及ぶ期間と£25,000にもなる費用をかけて建設された。フランスやドイツなどで見られる美しい城とは異なり、軍事要塞としての機能を追求した堅牢な城だ。

立地


城の西側に位置するメナイ海峡

この城は三方を海、川、街に囲まれており、地の利を活かした立地となっている。守りが弱い街側は城壁によって外周を囲んでおり、完全な城塞都市となっている。この構造は東ローマ帝国(ビザンツ帝国)の首都コンスタンティノープルを参考にしている。コンスタンティノープルは1453年にオスマン帝国のメフメト2世によって陥落されるまで鉄壁の城塞都市して数々の侵略者からの攻撃を跳ね除けて来た。

南側はセイオント川が通る
市街地を囲む様に城壁が建設された

構造



この城は二つの城門と9つの塔によって構成されており、それぞれの塔は井戸や住居と言った施設を守るだけでなく城壁に取りついた敵兵に対し弓兵が効果的に射撃を出来る様に多角形の外見をしている。


城門、城壁及び塔には等間隔で射手の為の狭間(銃眼)が設けられている。日本の城では正方形や正三角形の形状が一般的だが、欧州では縦長若しくは横長の物が一般的だ。前者が弓兵用、後者はクロスボウ兵用であるが用途はほぼ同じだ。

イーグルタワー



トップに2つのウェールズ旗がはためくこの塔はイーグルタワーと呼ばれている。この塔は現在でもある儀式の会場として利用されている。それはウェールズの統治者であるウェールズ大公の戴冠式。英国では1248年にイングランド王エドワード1世がウェールズを併合した際に第1王子にウェールズ大公の位を与えて以来、英国王室の第1王子(皇太子)がプリンス・オブ・ウェールズ(ウェールズ大公)となる伝統がある。従って、現在はチャールズ皇太子がプリンス・オブ・ウェールズの称号で呼ばれている。

天空の城ラピュタとカナーヴォン城


冒頭で語った様にカナーヴォン城は映画「天空の城ラピュタ」に登場するティディス要塞のモデルとなっている。劇中の要塞は中世の城に不釣り合いな近代的な要塞砲を備えた特徴的な外観をしているが、実際の城は対称的に中世の面影が残った古城である。では、劇中の何処にこの城の面影を見る事が出来るか紹介する。

①パズーが囚われた独房の窓


本作の主人公であるパズーが軍によって囚われた独房から外の光を見た窓は紛れも無く前述の狭間だろう。

②シータが囚われた部屋の窓


18世紀に入り廃城になってしまった為、城内は一部復元した部屋を除き廃墟となっている。この部屋もその内の一つ。

③ロボット兵によって切断された橋


劇の中盤において、シータが唱えた呪文によって目覚めたロボット兵によって放たれたビームによって真っ二つになった橋のモデル。この橋はWell(井戸)タワーの内部に掛っており、両端の城壁を行き来する為に使用される。


④シータが逃げ込んだ塔の天井


ロボット兵が突き破った塔の屋根は塔内部を風雨から守る為のもの。

あとがき


今回紹介したカナーヴォン城は前回のビッグ・ピットと比べ、天空の城ラピュタに登場したシーン等を再現できる程、作品の雰囲気を楽しむ事ができる。観光地の紹介に「まるで天空の城ラピュタの世界の様な」と言った紹介文を散見されるが、この場所ほどその名が相応しい場所は無いのではなかろうか。



2020年2月21日金曜日

天空の城ラピュタの世界を訪ねて 第1回 ビッグ・ピット国立石炭博物館


英国の産業革命は人々の生活を大きく変え、大英帝国の礎となった。産業革命が英国で花を開いた理由の一つに英国連邦を構成する一国ウェールズ南部で採れる良質な石炭、通称ウェールズ炭(カーディフ炭)の存在がある。ウェールズ炭は一般的な石炭に比べ炭化が進んでおり、発熱量が高く煙が出にくい特徴がある。


大英帝国を支えたウェールズの鉱業も20世紀に入りエネルギーの主流が石炭からガソリンに変わると陰りを見せる様になる。現在では単価の安い海外産の石炭に押され多くの鉱山が閉山してしまった。

そんなウェールズ南部の炭鉱街は日本の国民的アニメ映画「天空の城ラピュタ」のモデルとなっている事をご承知だろうか。今回は、ウェールズの石炭業とラピュタの世界が体験できるビッグ・ピット国立石炭博物館(Big Pit National Coal Museum)を紹介する。

アクセス



ロンドンからはパディントン駅から鉄道でウェールズ南部の港町ニューポート(Newport)を目指す。優等列車も停車するので、比較的アクセスはし易い。しかし、道中にある観光都市バース(Bath)-ロンドン間は非常に列車が混雑する為、事前に座席を指定する事をオススメする。鉄道車両の解説はコチラ

ニューポート駅から徒歩10分程の距離にあるバス停(Market Square)からX24番バスに乗車し、約1時間Curwoodで下車する。バス停からビッグ・ピットまでは約1.8km徒歩20分程かかる。坂道が続く為、足腰に自信の無い方はあまりおすすめできない。


営業時間


9:00-17:00 (最終入場16:30)
炭鉱ツアー
10:00-15:30

入場料


無料

炭鉱ツアー



職員が施設内を案内してくれるツアーが開催されている。参加費は無料でエントランスを抜けて初めに見える建物の2階にある待合室で待っていると職員が迎えにくる。ツアー参加者は立坑に入る事ができるのだが、筆者が訪れた際はエレベータシャフトのメンテナンス中の為、坑内に入る事は出来なかった。

左の建物が待合室
メンテナンス中のエレベータシャフト
BigPitの展示施設全景
炭鉱が機械化される以前は籠に人や馬を入れて地下に下ろしていた
鉱山で使用していたオイルランプの展示、売店ではレプリカを購入する事が出来る
炭鉱で採れた石炭を運ぶ為の二軸貨車
坑道内で使用する機材のメンテナンスを行うエリア

保存鉄道



炭鉱が閉山するまでは石炭を運ぶ為の鉄道がニューポートまで結んでいた。現在は廃線となってしまったが、一部はポンテプール&ブレナヴォン鉄道として残っている。

営業日:4月〜9月上旬の土日
運行回数:1日5便
乗車賃:往復£9

天空の城ラピュタとウェールズ



映画「天空の城ラピュタ」の監督である宮崎駿氏は制作前('85年5月)にプロデューサーの高畑勲氏のアドバイスでウェールズへロケハンに行っている。その際に見た炭鉱夫のストライキでの労働者の団結力や廃屋、大空を駆ける雲や草原の美しさは作品に大きな影響を与えたと宮崎氏は雑誌ロマン・アルバム(徳間書店)の取材で語っている。

あとがき



天空の城ラピュタが好きでウェールズに行きたいと考えている読者の皆様にお伝えしなければいけない事があるので、ここで書かせて頂きます。昨今のアニメ作品の様に作品で出来た風景が現実世界に全く同じ様に存在する訳ではありません。しかし、主人公のパズーが一人家に帰る際に歩いた原野や住んでいる炭鉱街の雰囲気を味わう事ができる。

参考文献


「ロマンアルバム・エキストラ 68 天空の城 ラピュタ」
出版社:徳間書店 昭和61年10月15日発行


2020年2月14日金曜日

ANA B777-300ER 国際線 新機材 プレミアムエコノミークラス


ロンドン-羽田間のフライトでANAを利用した際に、BidMyPriceと呼ばれる入札タイプのシートアップグレード制度を利用してANAの新プレミアムエコノミークラスに搭乗したので、今回は新シートと入札制度について紹介する。

BidMyPriceとは


BidMyPriceは2017年4月17日からANAが導入した入札式のシートアップグレードサービスだ。対象者には出発の約1週間前に「BidMyPrice@bid.ana.co.jp」から入札参加案内のメールが届く。メールに添付してあるURLから入札価格を設定し、入札成功時に料金を支払うクレジットカードを登録すると入札完了となる。因みに筆者利用時はロンドン-羽田線において¥20,000-¥50,000間で入札をする事ができた。入札の参加と価格の変更は搭乗時間の48時間前まで可能だ。

対象路線:ANAが運行する日本発着のアメリカ・カナダ・ヨーロッパ・オーストラリア・シンガポール・マレーシア・タイ・インドネシア路線
アップグレード内容:エコノミークラス→プレミアムエコノミークラスのみ(2020年1月時点)
対象者:ANAから直接購入した有償航空券保持者 (旅行代理店等で航空券を購入した場合は対象外)

空港でのチェックイン



ヒースロー空港の場合、エコノミークラスとそれ以外の上級クラスではチェックインカウンターの場所が大きく異なっている。エコノミークラスの場合、シンガポール航空やアシアナ航空等と共同のチェックインカウンターを利用する。上級クラスはANAのチェックインカウンターを利用できる。

預かり手荷物



プレミアムエコノミークラスは預け手荷物の重量や個数制限はエコノミークラスと同じだが、空港でのチェックイン時に「Priority」タグを付けてくれる。このタグが付いている荷物は到着時、優先的に荷物レーンに流してくれる。因みに「Priority」タグは座席の種類によって区別がある訳では無いので、ファーストクラスだと1番先に荷物がレーンに流れて来ると言う訳では無い。

空港ラウンジサービス



対象の空港において、空港ラウンジサービスを利用する事ができる。基本的にビジネスクラスと同じラウンジが指定されている。

ヒースロー空港ラウンジ解説はこちら

搭乗開始



残念ながらプレミアムエコノミークラスにおいて優先搭乗サービスは行なっていない。しかし、座席数が限られている為、頭上の手荷物収納棚が既に埋まっていた等のトラブルの可能性は低いと思われる。順って搭乗開始時刻までラウンジでゆっくり過ごすのがおすすめだ。

シート概要



シート配列:2-4-2の1列8席
シートピッチ:38インチ
シート幅:19.3インチ
シートメーカ:ZIM (ドイツ)
シートモニタ:15.6インチ タッチパネル式液晶モニタ

ヘッドレスト


ヘッドレストはエコノミークラスと同様、上下に移動可能な6-Wayタイプとなっており、左右が変形する事で頭部のホールド感を高めている。

シートモニタ



シートに着席したらシートモニターの大きさに驚愕するだろう。シートモニターはプレミアムエコノミークラスにおいて世界最大の15.6インチ タッチパネル式液晶モニタ。

読書灯



オーバーヘッドビンに搭載されている読書灯の他にシートにも読書灯が搭載されている。点灯操作は読書灯に付いているボタンによって行う。ボタンを押すごとに光量弱→光量中→光量強→消灯の順で変更できる。

リクライニング機構、コントローラ、オーディオプラグ



リクライニング機構は油圧アクチュエーターを使用しており、背ずりとレッグレストを操作する事ができる。オーディオや照明などの操作に使用するマルチコントローラーはセンターアームレストに収納されている。オーディオプラグはエコノミークラスとは異なり、2つの端子を使用するデュアルタイプ。

テーブル



テーブルはビジネスクラス等に見られるアームレストに収納する回転式テーブルを採用している。これは通路側に面していない座席に座っている乗客が化粧室に行き易くする為だ。因みに、テーブルの機構はアルミ材を切削加工している事が背面の加工痕から推察できる。これはエコノミークラスと違い、生産ロット数が少ない為と考えられる。

コンセント、USB


充電用のコンセントとUSB端子はセンターアームレストの下方にある。機内が暗く見つけづらいが、エコノミークラスと同様にマルチタイプのコンセントとUSB端子が各席に1個ずつ配置している。

ドリンクホルダ



ドリンクホルダーが前席のセンターアームレスト背面にも設置されている。机を畳みたい時や手元に置く事で溢してしまうリスクを回避する際に重宝する。ただし、離着陸及び地上滑走時は使用出来ないので注意が必要だ。

アメニティ



エコノミークラスで提供される毛布や枕と言ったアメニティーの他に、スリッパや歯ブラシなどを提供している。スリッパは持ち帰り自由となっている。

食事サービス


おつまみ
食事(1回目)
食事(到着前)

機内食及びドリンクのサービスはエコノミークラスと同じだ。
エコノミークラスのサービスについてはこちら

塩キャラメルのチョコレートケーキ

しかし、1回目の食事終了時と到着前の食事提供前の間はビジネスクラスで提供しているデザートと飲み物をいただく事ができる。1回目の食事が終わった後にCAが巡回し注文を行う。

あとがき


今回は初めて入札アップグレード制度を利用してみたが、分かりやすい上にお得に上級座席を利用出来るので、今後はビジネスクラス等でも利用ができる様になれば尚良いと感じた。この入札制度はカナダのPlusgrade社が提供しているサービスなのでANA以外にもルフトハンザ航空やアリタリア航空など世界48の航空会社が実施している。閑散期は最低入札価格でも当選するチャンスが高いので、もし機会が有れば宝くじ感覚で参加してみては如何だろうか。


2020年2月7日金曜日

IWM-DUXFORD ダックスフォード帝国戦争博物館 -VC10


帝国戦争博物館(IWM)ダックスフォードには4発のエンジンが全てリア配置の一風変わった旅客機を展示している。その名はヴィッカースVC10。英国の名門ヴィッカース社が手掛けた大型ジェット旅客機だ。今回はその歴史を紹介する。

設計案


ヴィッカース ヴァリアント爆撃機

時は1950年代に遡る。ヴィッカース社は英国王立空軍(RAF)向けにV1000と呼ばれる輸送機を開発していた。 これは先行していたヴァリアント爆撃機のデザインを踏襲し機体長を44.5m(146ft)に拡大した物だった。また、旅客機タイプのVC-7計画もあった。 

しかし、これらの計画は強大なライバルの出現により立ち消えてしまう。ボーイング707旅客機(B707)とKC-135輸送機だ。 これらアメリカ勢の台頭によりRAFは仮発注をしていた6機のV1000をキャンセルしてしまい、V1000は計画中止となった。 また、VC-7に関しても英国海外航空(BOAC)はボーイング社が提案したB707にロールス・ロイス製コンウェイエンジンを搭載しする案を採用した為、中止となる。

しかし、BOACは707では乗り入れる際に制約がある高高度且つ短い滑走路の空港に就航できる大型機を欲していた。これに答えるべくハイドレページ社はHP-97、ヴィッカース社はVC10を提案した(因みにヴィッカース社は公式には政府の資金援助無しに計画した事になっているが、政府からの資金援助があったのではないかと噂されている) 。結果、BOACはVC10案を採用し、1958に35機の契約が結ばれる。 また、RAFにも空軍輸送機として採用された。

設計



エンジンはロールスロイス社製コンウェイエンジンを4基搭載している(通常型はタイプ42、RAF及び後述のスーパーVC10はタイプ43)。高揚力が得られる様にエンジンは主翼からの吊り下げ式では無く、特徴的な4発リア配置となった。その為、主翼下部は非常にスッキリとしたデザインとなり、全幅に渡り高揚力装置が設置されている。


また、空力性能に関して王立航空協会(RAE)ファーンボロからの後押しもあり、尾翼はT字翼を採用している。 T字尾翼とする事で水平尾翼がエンジンの後流の影響を受けないのが狙いだ。


補助動力装置(APU)は Bristol Artouste 526を1基テイルコーンに搭載している。 

そして1962年6月29日、VC10初号機(G-ARTA)がヴィッカース社のブルックランド飛行場(ウェーブリッジ)で初飛行した。また時を前後して、胴体長を約4m(13ft)伸ばし座席数を130席→169席に増やし、フロンガスの冷房ユニットを強化したスーパーVC10が計画された。因みに1961年4月、BOACは発注機数を通常型×35機から通常型×15機+スーパーVC10×30機に変更している。

機内紹介


コックピットレイアウト



旅客機タイプは機長、副操縦士、航空機関士の3名体勢、RAFタイプはこれに航法士が加わる。旅客機タイプの通常型では自動着陸装置が搭載されていたが、スーパーVC10では撤去されている。これは装置が高価な上に着陸時にしか使用できず、搭載しているのも本機のみだった為である。また、RAFタイプでは軍用無線に対応する為、UHF通信操作盤がオーバーヘッドパネルに追加されている。


コックピットの窓には電気式ヒーターが有り、脱出用の窓が機長と副操縦士側にそれぞれ配置してある。

キャビンレイアウト


ギャレー



旅客機:前方に2箇所、後方に2箇所
RAF:先頭ドア付近中央に1箇所

乗務員用トイレ



コックピットの後方に1箇所。省スペース化の為、洗面台は壁面に収納できる様になっている。

トイレ


キャビン前方、ファーストクラス用トイレ
キャビン後方、エコノミークラス用トイレ

旅客機:前方に2箇所、後方に3箇所
RAF:機体後方ドア付近の両側に2箇所

ファーストクラス



座席配列は2-2。背ずりは簡易リクライニング機構付き。テーブルは前席の背面に収納されている。前席が無い場合は壁面に設けられたテーブルを使用する。

最前列のファーストクラスシート
背面テーブル展開時

エコノミークラス



座席配列は3-3。簡易リクライニング機構及び背面テーブルあり。

背面テーブルはファーストクラスと同じく二つ折にして収納

荷物棚



DH.106コメットや初期のB707では鉄道車両の様な開放式の荷物棚を採用していたが、乱気流を飛行する際に手荷物が落ちて来る危険性がある為、現在の飛行機では一般的な完全収納式の荷物棚になっている。

売上不振



1960年、BritishUnitedAirways(BUA)は南アメリカ路線向けにVC10 通常型 Type 1103を2機発注した。しかし、BUAはスコットランドのカレドニアン航空と合併する事になり、同社の主要機材はB707に統一される事となった。1機(G-ASIW)はマラウィ航空、もう1機(G-ASIX)はオマーン王室に売却された。

その後の販売も上手くいかず、1961年ガーナ航空が3機発注(後に2機に変更)するが、輸送量が過剰の為、早々にレバノンのミドル・イースト航空(MEA)に売却している。因みにMEAに売却した機体の内、1機は1968年にベイルート空港でイスラエル軍による攻撃で破壊されている。

最終的にVC10は全ての派生型を含めても僅か64機しか製造されなかった。ライバル機であるB707が1010機、DC-8が556機と製造数に大差を付けられてしまった事から本機は営業的に失敗したと言われている。

原因


・登場が遅すぎた(B707の初飛行は1954年、DC-8は1958年)

・エンジンがリア配置の為、低騒音で燃費の良い高バイパスエンジンを搭載できなかった

・滑走路の拡張工事が進み、短距離離陸性能が求められなくなった


幻の超大型VC10 


大量輸送時代を築いたボーイング747

1970年代にヴィッカース社はVC10の生産ラインを維持するべく、拡大版であるスーパー200とスーパー265を計画した。2つのデッキに265名の乗客を収容し、エンジンはロールスロイス 社製RB178-14ターボファンエンジンを4基搭載する予定だった。しかし、あらゆる面に於いてボーイング747に劣っていた為、計画は中止を余儀無くされた。

VC10給油機 


旅客機からの派生例:DH.106 コメットの派生機ニムロッド対潜哨戒機

1960年、RAFは旅客機タイプのVC10を改造し空中給油機にする計画を採用した。これは主翼の下にエンジンが無い本機は給油ポッドを主翼下に懸架しても給油機がエンジンの排気にかぶる事がない為、給油機として理想的だったのである。

通常型VC10
VC10 K Mk2 (ex V1101→V1112)
スーパーVC10
VC10 K Mk3 (ex V1154→V1164)

改造工事はフィルトンにあるBritish Aerospace社で行われた。
この際ノーマルタイプのVC10(V1112)はエンジンをコンウェイ43に換装した。
また両方ともラムエアタービンを胴体下に格納出来るものに変更した。

引退


低バイパスエンジンに起因する燃費の悪さと騒音問題により本機は1980年代に入ると早々に旅客運用から引退してしまった。しかし、空中給油機に改造されたVC10は後継機のA330に置き換えられる2013年9月25日までイギリスの空を飛んでいた。

共産主義者の従兄弟


本機はエンジンを4機リア配置と言う特徴的な外観だが、世界にはもう1機種瓜二つの外観を持つ飛行機が存在する。それは当時のソ連イリューシン設計局が開発したIL-62である。これは、ソ連のスパイがVC10の設計図を秘密裏に入手していた事が冷戦後明らかになる。西側ではVC10が1980年代には旅客輸送を引退しているが、Il-62は1993年まで製造が続けられた上、現在でも政府要人機として数機が現役である事が確認されている。総生産機数はVC10よりも多い285機と言うのは何とも皮肉である。これは後継機の開発が遅れた事及び広い国土故に未整備の空港が多い事、社会統制が行われていたソ連において騒音は問題と成らなかった為と思われる。

あとがき



旅客機の市場は古今東西、競争の激しい市場である。世界で初めて商用ジェット旅客機を世に出したイギリスであっても旅客機の自主開発は遂に終焉を迎えてしまった。因みに商業的には失敗した本機は意外にもBOAC、RAF双方のパイロットから好評だった様である。如何に先進的な技術を盛り込んでいても売れるとは限らない。市場のニーズや経済性、将来的な拡張性などの様々な要因が折り重なって初めてビジネスとして成り立つ。旅客機の新規開発は極めて険しい道のりなのである。

参考文献


「MODERN CIVIL AIRCRAFT:1 Vickers VC10」
著:Martin Hedley, 出版社:IAN ALLAN, ISBN: 0 7110 1214 8