展示場所は大きく分けて4つのエリアに分かれており、博物館の中央を道路が南北に分断している。エントランスがある南側エリアには、王室専用列車などを収めた「ステーション・ホール」、動態保存機に乗ることが出来る「サウス・ヤード」がある。
エントランスから延びる地下道を通って道路の下を潜ると北側エリアに行くことができる。北側エリアには世界最速の蒸気機関車マラード号を収めている「グレート・ホール」、機関車の整備・復元作業を行っている「ノース・シェード」がある。
今回は南側エリアの「ステーション・ホール」と「サウス・ヤード」を紹介し、後編では北側エリアの展示を紹介する。
・英国における鉄道の歴史
世界初の旅客鉄道で活躍した「ロケット号」 |
かつて南海岸に路線を持っていたLSWRのM7クラス蒸気機関車(245号機) |
- LNER (London and North Eastern Railway)
- LMS (London Midland and Scottish Railway)
- GWR (Great Western Railway)
- SR (Southern Railway)
英国国鉄が誇る高速列車インターシティ125(HST) |
東海岸本線は運行権が高額な為、運行会社が長続きせず、 現在は国が運営するLNERが一時的に運行している |
ステーション・ホール
右手がレストラン。ランチタイムはビュッフェ方式で食事が振舞われる |
王室専用客車
1. ヴィクトリア女王専用客車
鉄道会社:London & North Western Railway (後のLMS)
設計:Richard Bore
製造:Wolverton
製造年:1869年
車番:802
2. 王妃アレクサンドラ専用客車
鉄道会社:London & North Western Railway (後のLMS)
設計:J.C. Park
製造:Wolverton
製造年:1902年
車番:800,801
王妃の居室 |
ドレスルーム |
バスルーム |
玄関ホール |
鉄道会社:East Coast Joint Stock (後のLNER)
製造:Doncaster
製造年:1908年
車番:395
この客車がメアリー妃の専用列車になったのは1924年にLNERによって改装工事を行ってからとなる。彼女はこの車両を先王から受け継ぐと直ぐに自分が使いやすい様にアレンジを行った。現在でもフロストガラスに彼女のモノグラムを見ることが出来る。彼女は電気式の扇風機やヒーター、照明を設置し、家具も新しいものに交換した。
後にこの車両は現在の女王陛下であるクイーン・エリザベス陛下の専用車両となった。その際、車体の塗装色がクラレット(濃い赤色)に塗り替えられている。最後にこの車両が王室専用列車として運行されたのは1973年の事である。
居室 |
控室 |
玄関フロア |
蒸気機関車
日本の旧国鉄の蒸気機関車は車輪の配置をアルファベットで示す(例:C62、D51など)が、海外では「先輪-動輪-従輪」の車輪の数で示すホワイト式が一般的だ。
ホワイト式で表記するとC62は4-6-4(通称:ハドソン)、D51は2-8-2(通称:ミカド)と表される。
1. LBSCR B1 Class "214 Gladstone"
鉄道会社:London,Brighton & South Coast Railway (後のSR)
設計:William Stroudley
製造:Brighton
製造年:1882年
車番:214
愛称:Gladstone
軸配置:0-4-2
引退:1927年
グラッドストンと名付けられたこの機関車はWilliam Stroudleyによって1882年に造られた。1882年から1891年にかけて同様の機関車が36両製造された。
LBSCRの路線は路線長が短く、直線が多い特徴があった為、加速性と高速性の両方を導くために当時主流だった動輪を後方に配置する事はせず、動輪を前方に配置している。その為、最高速度は約60mile/h(96.6km/h)となっている。
機関室 |
2. LMS Hughes Crab "13000"
鉄道会社:LMS
設計:George Hughes
製造:Horwich
製造年:1926年
車番:13000
軸配置:2-6-0
総生産数:245台
設計者でありLMSの初代CME(Chief Mechanical Engineer)であるGeorge Hughesの名前を取ったヒューズ・クラブと呼ばれるこの機関車は貨客両方に対応したMT機(Mixed Traffic Engine)として設計された。
この機関車の最大の特徴は大きくせり上がったランボードと斜めに傾いたシリンダーである。これは、「車両限界が厳しかった事」及び「ボイラー圧力が180psiと低い為、シリンダーのストロークを伸ばす必要があった事」に起因するものである。この外観的な特徴からCrab(蟹)と呼ばれている。
本機はその初号機で、本機とは別に13065号機がマンチェスターに程近い「East Lancashire Railway」で動態保存されている。しかし、2018年からエンジンのオーバーホールの為、現在は休車となっている。
機関室 |
コンパートメント車
初期の鉄道客車は馬車から発展した為、車内に通路はなくコンパートメントと呼ばれる小部屋が幾つも連なっており、それぞれの部屋に扉が設けられていた。この構造は英国が発祥で鉄道黎明期に世界中に普及した。このタイプの客車をイギリス客車、イギリス式と呼ぶことがあるのはその為だ。日本も明治期に同型の車両が運用された。
写真提供:National Railway Museum |
鉄道会社:London & South Western Railway (後のGWR)
製造:Eastleigh
製造年:1903年
車番:3598
構造:ー等~三等コンパートメント客車
一等席 |
二等席 |
サウス・ヤード
ステーション・ホールを抜けた先にあるエリアがサウス・ヤードだ。ここでは有料のチケットを購入する事でミニチュア列車やSLがけん引する客車に乗ることが出来る。SLが運転されるのは主に週末と学校が休みの日だ。
このエリアは現在、2025年の博物館リニューアルに向けて工事が行われているので、アトラクションの内容が急遽変更になる可能性がある。
アクセス
NRMがあるヨークはグレートブリテン島のほぼ中央に位置しており、ロンドン キングズ・クロス駅からは特急列車で約2時間、マンチェスターからは約1時間30分で着くことが出来る。
博物館は駅に隣接している為、徒歩でアクセスすることが可能だ。
緩やかなカーブが特徴的なヨーク中央駅は東海岸本線の主要駅だ |
コンコースを渡って駅舎とは反対側の西へ向かう |
西口は改札機はないが、駅職員が立って検札を行っている |
道なりに進み、左手に見えるレンガ造りの建物が博物館の入り口だ。
開館時間
入場料
(寄付金歓迎)
あとがき
エントランスのミュージアムショップではオリジナル商品を販売している |
NRMはイギリスの鉄道マニアにとって聖地であると共にヨークの目玉観光地となっている。ここの博物館の魅力はただ展示品を飾るだけではなく、「ステーション・ホール」のレストランの様に近くで食事をする事が出来る様になる等、常に新しい事にチャレンジしている事だ。その為、展示してある車両は頻繁に移動をしている。何度来ても新しい発見がある事がリピーターが絶えない理由だと感じた。
後編はコチラから
参考文献・サイト
- 「鉄道マニアのためのヨーロッパ鉄道旅行」イカロス出版 ISBN978-4-86320-755-4
- 「LMSの急客機」著:Double Arrow 制作:英国鉄道研究会
- 「Black Fiveの栄光」著:Double Arrow 制作:英国鉄道研究会