2021年2月12日金曜日

世界最強格のスーパー・キャリア | USS ロナウド・レーガン

 

今回紹介する船はアメリカ海軍の原子力空母「USS ロナウド・レーガン(CVN-76)」

2015年からFDNF(Forward Deployed Naval Forces:前方展開海軍部隊)空母の任務を前任のUSSジョージ・ワシントン(CVN-73)から引き継いだ同艦は日本の横須賀基地を母港としてアジア・太平洋地域で活動している。

今回は2018年8月4日に米海軍横須賀基地にて開催された「ヨコスカフレンドシップデー」の写真を交えて本艦を紹介をする。


"Peace is not absence of conflict, 
it is the ability to handle conflict by peaceful means"


「平和とは紛争が無くなる事ではありません。
紛争を平和的に解決する能力のことを意味します」

第40代アメリカ合衆国大統領 ロナウド・レーガン


ニミッツ級航空母艦


2008年から2015年まで横須賀を母港としていた
USSジョージ・ワシントン (CVN-73)


ニミッツ級航空母艦は1975年から2009年にかけて就役した米海軍が誇る超大型空母(スーパー・キャリア)だ。

どれくらいの大きさかというと、飛行甲板は全長:332.9m、全幅:76.8mあり、全長は東京駅の駅舎(335m)に匹敵する大きさだ。作戦行動中には約6,000名(船員:3,532名、航空要員:2,480名)ものクルーが乗船する。間近で見ると正に海に浮かぶ都市だ。



この超大型空母の動力源はウエスティングハウスA4W原子炉2基(1基当たり14万shp)で、最大出力約35ノット(時速56km/h)を発揮する。燃料は濃度25%のウラン235を使用しており、燃料自体の寿命は艦の寿命と同じく約50年となっている。

ニミッツ級航空母艦は約30年間の長い期間を通して計10隻が就役した為、製造時期によって3つのタイプが存在する。


初期型:ニミッツ級

USSニミッツ(CVN-68)、USSドワイト・D・アイゼンハワー(CVN-69)、USSカール・ヴィンソン(CVN-70)

Flickr - Official U.S. Navy Imagery - USS Nimitz transits the Pacific Ocean..jpg
USSニミッツ (©U.S. NANY)


中期型:セオドア・ルーズベルト級

USSセオドア・ルーズベルト(CVN-71)、USSエイブラハム・リンカーン(CVN-72)、USSジョージ・ワシントン(CVN-73)、USSジョン・C・ステニス(CVN-74)、USSハリー・S・トルーマン(CVN-75)

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USSセオドア・ルーズベルト (©U.S. NANY)


後期型:ロナウド・レーガン級

USSロナウド・レーガン(CVN-76)、USSジョージ・H・W・ブッシュ(CVN-77)

USS Ronald Reagan (CVN-76).jpg
USSロナウド・レーガン (©U.S. NANY)


USS ロナウド・レーガン


改ニミッツ級 USS ロナウド・レーガン (CVN-76)

現在、横須賀を母港としているUSSロナウド・レーガンはニミッツ級の最終グループで、今までの建造経験や運用面での教訓を活かして再設計がされた艦なので、細部が初期型や中期型と異なる。その為、USSロナウド・レーガンと姉妹艦のUSSジョージ・H・W・ブッシュは「改ニミッツ級」と呼ばれる事がある。

艦内レイアウトは三次元コンピュータを用いてより効率的で機能性の高い設計となっている。艦内各部署のスペースやレイアウトは勿論、艦内を縦横無尽に行き交う配管やワイヤーも整理された。

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揚錨作業 (©U.S. Pacific Fleet)

・改ニミッツ級の外見から分かる大きな違いは3つ

  1. 艦首底のバルバス・バウ
  2. 艦橋後ろに独立していたレーダーマストを艦橋に集約
  3. アレスティング・ワイヤを4本から3本に変更


USSジョージ・ワシントン(中期型)では
艦橋の後ろにレーダーマストが立っている

USSロナウド・レーガン(後期型)では
レーダーマストが艦橋と一体化された

船名の由来



船名の由来は、ご存知アメリカ合衆国第40代大統領のロナウド・レーガン氏に由来している。アメリカ海軍の艦名は日本のように明確な命名規則はない。第二次世界大戦まではアメリカの歴史にまつわる古戦場や州、町の名前を用いる事が一般的だったが、現在ではアメリカに貢献した人物名が用いられる事が多い。



レーガン大統領とアメリカ海軍にまつわるエピソードで最も有名なものは「600隻艦隊構想」だろう。第二次世界大戦後の軍縮により、アメリカ海軍の戦力は1970年代には約400隻まで減少していた。そんな中、ソ連は海軍力を増強し1962年のキューバ危機に代表されるようにアメリカ近海でも活動を活発化させた。

そこで、拡大するソ連への脅威に対抗する為、第二次世界大戦後最大の軍拡を行ったのが600隻艦隊構想だ。この構想の中には予備役となっていたアイオワ級戦艦4隻を改修して現役復帰させる計画も含まれていた。


ハワイの真珠湾で博物艦として公開されているアイオワ級戦艦USSミズーリ
600隻艦隊構想によって現役復帰し、湾岸戦争に従軍した後1992年に退役した


しかし、冷戦の終結により再び軍縮の時代が到来した為、オバマ政権時代には308隻目標にまで縮小した。その後、トランプ政権下で355隻目標に上方修正したが、船の建造ペースは変わらず、2020年末時点の米海軍の戦力は総数296隻に留まっている。

トランプ政権末期にエスパー国防長官が「2035年までに有人艦355隻、更に無人艦を建造し2045年までに500隻体制にする」と語っていたが、バイデン政権がこの問題に対しどの様に対応するかが注目される。


アメリカ海軍の組織図
大統領が最高司令官であり、
その配下に国防長官や海軍大臣、制服組のトップが名を連ねる

兵装


シー・スパロー(左)、20mmCIWS(中央)、25mm単装機銃(右下)

本艦はあくまで航空機の展開が主任務の純粋な空母として設計されている為、個艦防空ができる最低限の兵装しか積んでいない。艦隊防空は艦隊を構成するイージス艦等に任せられている。因みに、海賊などの小型艦艇が出没する海域はキャットウォーク等に機銃を取り付ける場合がある。

因みに世の中には空母としての能力を有していながら、異なる艦種を与えられた船が存在する。例えばソビエト連邦のキエフ級航空巡洋艦やアドミラル・クズネツォフ級重航空巡洋艦、日本のひゅうが型やいずも型ヘリコプター搭載護衛艦などがある。前者はモントルー条約によってトルコ領内の海峡は空母の航行が禁止されている為、後者は国内世論を反映した為である。


・USSロナウド・レーガンの主な兵装

①:発展型シー・スパロー 短SAM 8連装発射機 2基

②:RAM 近接防御SAM 21連装発射機 2基

③:20mm CIWS 2基

④:25mm単装機銃 4基 

 

RAM 近接防御SAM 21連装発射機


レーダー&電子戦装備



航空母艦は艦載機の母艦であるだけでなく、艦隊の旗艦としての役割もになっている。その為、レーダーや電子戦装備が充実している事が特徴だ。今回は上図を用いてその一部を紹介する。


①:URN-25 TACAN

②:リンク16用アンテナ 

③: SPQ-9B 多機能レーダー

④:WSC-3 衛星通信アンテナ

⑤:SPS-67(V)1 対水上レーダー

⑥:SPS-48E 三次元レーダー

⑦:SPS-49(V)5 対空レーダー 

⑧:Mk.95 射撃指揮装置 


格納庫



格納庫は全長:208.5m、全幅:32.9m、高さ:8.1mの大きさで、二つの防火シャッターにより3つのブロックに分割することが出来る。襖によって部屋を分割出来る旅館の大広間を想像して頂けると分かりやすい。

ここでは機体の整備を行っており、地上と同じような整備機材が揃っている。整備が完了した戦闘機は飛行甲板の上で露天駐機される。その為、ニミッツ級の搭載機数はCTOL機52機、ヘリコプター15機であるが、すべてを格納庫に収める事はできない。



艦載機は入港前に地上基地に移動している為、
退役したF/A-18 ホーネットを艦内訓練用に使用している


ニミッツ級は右舷側に3基、左舷側に1基の大型エレベータを有している。エレベータのサイズは25.9m×15.9mで、58.5トンまでの荷物を揚げることが出来る。主力戦闘機であるF-18シリーズであれば翼を折り畳んだ状態で2機を同時に飛行甲板へ揚げる事が出来る。



艦載機


空母に搭載される航空隊は常に決まった空母と共に行動する訳ではない。

現在、USSロナウド・レーガンと共に行動している第5空母航空団(CVW-5)は日本を拠点(固定翼機は岩国基地、回転翼機は厚木基地)に活動している航空団で、1973年10月にUSSミッドウェイが初代FDNF空母として横須賀基地に配備されてから約50年間日本を拠点としている。

その為、CVW-5にとってUSSロナウド・レーガンは日本を拠点とする様になってから5隻目の空母となる。


・CVW-5 所属部隊

VFA-102 Diamondbacks (F/A-18F)

VFA-27 Royal Maces (F/A-18E)

VFA-115 Eagles (F/A-18E)

VFA-195 Dambusters (F/A-18E)

VAQ-141 Shadowhawks (EA-18G)

VAW-125 Tigertails (E-2D)

HSM-77 Saberhawks (MH-60R)

HSC-12 Golden Falcons (MH-60S)

VRC-30 Providers (C-2A)


因みに、VFA-195の愛称であるダムバスターズの由来は朝鮮戦争中の1951年5月1日に北朝鮮の華川ダムを破壊した功績から名づけられている。その為、イギリス空軍が第二次世界大戦中に実施したチャスタイズ作戦によってドイツ工業地帯のダムを破壊したイギリス空軍第617飛行中隊(通称ダムバスターズ)とは全く関係ない。


F/A-18E スーパーホーネット (VFA-115所属機)

EA-18G グラウラー (VAQ-141所属機)

E-2D アドバンスドホークアイ (VAW-125所属機)

MH-60S ナイトホーク (HSC-12所属機)


あとがき



今思い起こせば2018年8月4日は艦船マニアにとっては天国の様な日であった。横須賀ではUSSロナウド・レーガンと第七艦隊旗艦のUSSブルーリッジ、海上自衛隊の試験艦あすかが公開され、東京の晴海ふ頭では来日していたイギリス海軍の揚陸艦HMSアルビオンが公開されていた。一日にこれだけ多くの軍艦に乗れる機会はそう多くは無いのではなかろうか。

USSブルーリッジやHMSアルビオンについても資料が揃ったら記事にしてみようと考えています。


次回投稿予定日


2021年2月19日(金)


参考文献


  • 「世界の艦船 アメリカ海軍2021」出版:海人社、雑誌05604-1
  • 「航空ファン 2015年11月号」出版:文林堂、雑誌03743-11
  • 「Jシップス 2008年冬号 Vol.31」出版:イカロス出版、雑誌15167-03
  • 「Jシップス 2008年秋号 Vol.34」出版:イカロス出版、雑誌15167-12



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