2020年3月6日金曜日

王立空軍博物館 ロンドン (RAF Museum London)


王立空軍を意味するRoyal Air Force(RAF)は今や英国空軍の固有名詞となっている。第一次世界大戦時、世界の何処にも空軍と呼ばれる組織は存在しなかった。事実、第二次世界大戦においてもアメリカや日本の航空戦力は海軍や陸軍の一部隊に過ぎなかった。そんな中、第一次世界大戦後にいち早く独立兵科である空軍を組織したのがイギリスである。

イギリスにはこうした経緯で発足したRAFの足跡を後世に語る為のRAFミュージアムが2カ所存在する。一つはバーミンガムに程近いコスフォードに、今一つはロンドンにある。今回はRAFミュージアム ロンドン館を紹介する。

アクセス


ロンドン北部に位置する当博物館へはロンドン中心部(シティ)から地下鉄(チューブ)で行く事ができる。最寄駅はノーザン線のコリンデール駅(Zone4)。ノーザン線はカムデン・タウン駅を境に木の枝の様に路線が分岐する為、列車の行き先には注意が必要だ。エッジウェア行の列車に乗れば間違いなくコリンデールに辿り着ける。

コリンデール駅からは徒歩15分程。道は平坦だが、交通量が多く歩道が狭いので注意が必要。


開館時間


11月1日〜2月29日
10:00-17:00
3月1日〜10月31日
10:00-18:00

※最終入場は閉館時間の30分前
※イベントや祝日等で閉館の可能性あり、公式サイトを要確認

入場料


無料
(寄付金歓迎)

館内MAP


※この航空写真は2018年の改装以前に撮られている為、駐車場の位置が現在と異なる
博物館は6個の格納庫(ハンガー)から構成されており、それ以外にレストランが独立して存在する。尚ハンガー3,4,5(以下H3,4,5)は内部で繋がっている。では、それぞれの展示を紹介する。

H1


ショート サンダーランド

エントランスを兼ねるH1の展示は主に装備品の開発・種類及び救難活動である。RAFグッズやプラモデルを扱うショップも併設されている為、お土産を買うとしたらここで探すと良いだろう。

ここの展示の目玉は何と言ってもショート サンダーランド飛行艇だろう。第二次大戦中、この飛行艇はドイツのUボートにとって非常に脅威だった。空から潜水艦を見つけ出す姿は指輪物語に出てくる魔王サウロンの下僕ナズグールに例えられた。

サンダーランド は機内に入る事もできる

また、装備品の展示では英国が開発した世にも奇妙な空対空ミサイル(AAM)の展示がある。

取り扱い注意!
防護服必須のAAM、ファイアストリーク


一番手前がファイアストリーク

これは、1957年にデ・ハビランド社が開発した第一世代のAAM。開発名はブルー・ジェイ。発射後は母機からの誘導が必要無いファイア・アンド・フォゲット式のミサイル。

ミサイルに詳しく無い人でも気づく特徴的なペンシル型ノーズコーンはミサイルの誘導に使用する赤外線シーカーに氷が付着しない様にする物。実はこの赤外線シーカーがかなりの曲者だった。原料に三硫化ヒ素を用いている為、人体に有毒な上にS/N比を上げる為に常に-180℃で冷却し続け無くてはいけない扱いづらい物だった。

またミサイル内部の構造も複雑で、まず通常は先端にある筈の弾頭がミサイルの後部にある。さらにミサイルの制御は後方のデルタ翼によって行われたが、翼を動かすアクチュエーターは何故かミサイルの前方にあり、更にアクチュエーターを動かす為のエアコンプレッサーはミサイルの後方に配置していた。

しかし、このミサイルの決定的な欠点は誘導装置が雲の中では働かないという点だった。冬場は晴れることが少ないイギリスにおいてである。そんなファイアストリークもイギリス空軍において初めて有効なAAMであり、改良されつつ1988年まで使用された。


H2



煉瓦造りで一際古い外観のH2は第一次世界大戦で活躍した飛行機を展示している。他の博物館ではあまり見られない航空黎明期の飛行機達の姿を見る事ができる。

Blériot XXVII
ソッピース トライプレーン

木製の枠に布を羽布張りにした構造が良く分かる
機銃のプロペラ同調装置を模した模型

H3,H4


スーパーマリン ストランラー

H3,H4は第二次世界大戦で活躍した航空機を主に展示している。第二次世界大戦で活躍したイギリスの戦闘機と言えばスーパーマリン スピットファイアやホーカー ハリケーンを思い浮かべる人が多いと思う。ここの展示はそうした名機に隠れたワークホースや枢軸陣営の飛行機も展示している。

ホーカー社の暴風三兄弟


ホーカー社が傑作機ハリケーンの後継機として開発したタイフーンとその発展型テンペスト。搭載エンジンは変態エンジンメーカーとして名高い(興味がある人はデルティックエンジン等で調べて見ると良い)ネイピア社製セイバーエンジン。

次期主力エンジンの開発競争において名門ロールスロイス(RR)社はヴァルチャー、ブリストル社はセントーラスを開発していたが開発に難航していた為、ネイピア社に白羽の矢が立った。因みにホーカー社ではRR ヴァルチャーを搭載した機体をトーネードとして先行開発していたが、ヴァルチャーエンジンが失敗作となってしまった為、トーネードはお蔵入り、タイフーンが正式採用される運びとなった。詳しくは岡部いさく氏 著「世界の駄作機」を確認して欲しい。
ホーカー タイフーン
ホーカー テンペスト


夜間戦闘機


ブリストル ボーファイター

飛行船


R33飛行船の操舵室


第二次世界大戦のドイツ軍戦闘機で最も有名なBf109。高速を活かした一撃離脱を重視して開発された重戦闘機。総生産機数はドイツ軍機で最も多く、全シリーズを含めると33,984機に及ぶ。

メッサーシュミット Bf109


第二次世界大戦中に最後に生産された複葉戦闘機はグロスター グラディエーターでは無くイタリア フィアット社製 CR.42 ファルコ。低速だが運動性能が良く安価な軽戦闘機として使用され、ベルギー、ハンガリー、スウェーデンにも輸出された。因みにファルコはイタリア語で鷹の意味だが、ややこしい事に同名の戦闘機が同時期にもう一つ存在する。その名はレッジアーネ Re.2000 ファルコと言い、全金属製で引込式の主脚を備えた先進的な単座戦闘機だった。

フィアット CR.42 ファルコ

H5


ハインケル He111

H-5は爆撃機や双発戦闘機をメインに取り扱っている。世界で保存数の少ないドイツ軍機の展示もあり、非常に充実したラインナップなのだが、格納庫の照明が非常に暗いのが少し残念な点。薄暗い為、足元には注意しよう。

ユンカース Ju87 スツーカ
メッサーシュミット Bf110 G-2
ハインケル He162 ザラマンダー

H6



最後に紹介するのは現代戦をテーマにしたH6。ユーロファイター タイフーンやバッカニア S.2bなどを見る事ができる。

砂漠迷彩のバッカニア S.2b


あとがき


スピットファイア Fish & Chips £10.50

RAFミュージアム ロンドンはシティーからのアクセスも良い為、もしロンドンに寄った際は是非オススメしたいスポットだ。平日は小中学校の校外研修、休日は家族連れで常に賑わっている。日本では考えられないかも知れないが、子供の教育施設としての側面もあるのだ。



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