2020年7月17日金曜日

海洋国家イギリスの歴史を今に伝える博物館! |National Maritime Museum 国立海洋博物館 (イギリス、グリニッジ) [その1]

National Maritime Museum

イギリスは日本と同じく四方を海に囲まれている為、海上交易で栄たのは正に歴史の必然だった。従って海上交易はイギリス経済の生命線とも言える。この生命線を守る為、強力な海軍が組織された。言わずと知れたRoyal Navy(王立海軍)である。

旧王立海軍学校
グリニッジ標準時で有名なロンドン東部、グリニッジにはかつて王立海軍学校(現在は一般の大学となっている)があった。その南側に佇むのが今回紹介する国立海洋博物館だ。

以前紹介したヒストリック・ドックヤード チャタムは現代(動力船)の展示がメインだったのに対し、こちらは中世〜近世(木造帆船)の展示をメインに扱っている。
大航海時代〜産業革命にかけての歴史に興味がある方には是非オススメしたい博物館だ。



アクセス



ロンドン中心部からグリニッジへ訪れるには3つの方法がある。

①National Rail (旧国鉄)
チャリング・クロス駅、ロンドン・ブリッジ駅から乗車しグリニッジ駅で下車。所要時間は最も短く約15分。2020年7月現在、テムズリンクとサウスイースタン鉄道がそれぞれ列車を運行している。

②DLR
ロンドン交通局が運営する新交通システムで神戸のポートライナーや東京のゆりかもめの様な完全無人運転の高架鉄道(DLRは通常の鉄道と同じくレールの上を走る)。最寄駅はカティー・サーク号駅。所要時間はバンク駅から約20分。

③リバー・ボート
テムズ川の下流に位置する為、船での移動が可能。船からロンドンの街並みを眺めることができる為、時間に余裕のある方は是非試して欲しい。所要時間は約40分。



開館時間


10:00-17:00

※クリスマスの前後は閉館
※新型肝炎流行に伴い臨時休館を行っています。詳細は公式サイトを要確認

入場料


無料
(寄付金歓迎)


序章 船の基礎知識


ここでは、船に関する用語や基礎知識について解説します。この辺りの知識があると博物館に行った際にもっと楽しめるはず!初心者向けに説明する為、「私そんな事知っているよ」っていう方はスキップをして欲しい。

⒈ 用語解説



普段目にする大型船の殆どはエンジンやモーターによって航行する動力船だが、蒸気機関を搭載する汽船が発明される以前は、長らく風の力で航行する帆船が船の主流だった。ここでは一般的な3本マストの帆船を例に用語を解説する。普段聞き慣れない横文字が連発するがご容赦願いたい。

まず、船の船首をバウ(Bow)、船尾をスターン(Stern)と呼ばれている。

①〜③マスト:⑤セイルの鉛直方向を支える柱
 ①フォアマスト(Foremast):最前列のマスト
 ②メインマスト(Mainmast):船の中央に位置し、一般に最も背が高い
 ③ミズンマスト(Mizzen mast):最も後方に位置するマスト

④ヤード(Yard):⑤セイルの水平方向を支える支柱

⑤セイル(Sailまたは帆):風を受けるための部分で材質は帆布が使用される。帆の場所によってトップセイル(Topsail)、コースセイル(Course sail)、バウスプリットセイル(Bowspritsail)など様々な名前があるが、今回は割愛する

⑥ブレース(Brace):ヤードの両端から伸びているロープで、ヤードの角度調節に用いる。角度を調節する必要のない時はロープを係柱(Bit)に固定する

⑦錨(Anchor):錨泊する際に用いる。一般的には船首から投錨するが、船尾から行う事もある

⑧ハル(Hull):船体の外板

⑨舵(Rudder):舵から伸びた縦軸の先端(舵頭)には横軸の舵柄(Tailler)が伸びており、船尾から士官次室(戦列艦の場合)まで伸びている。これに繋がれた操作索が上甲板の舵輪(Steering)に繋がっている

舵輪(Steering)

2. 船の変遷


近世における代表的な船の種類を3つ解説する。現代の船がそうである様に帆船の形は時代によって変化していった。

①ガレオン船 (16〜18世紀)


それまでの船の主流はコロンブスが新大陸を発見した際に乗船したサンタ・マリア号などのカラック船(Carrack)と呼ばれる船だった。16世紀に入るとこれを発展したガレオン船に取って代わられる様になる。ガレオン船は全長が長く、船首が低い代わりに船尾を高くし舵の効きと船速を良くしている。1588年に起こったアルマダの海戦においてスペインの無敵艦隊は重武装のガレオン船で艦隊を構成していた。

因みに、フィクションではあるが映画「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズに登場するフライング・ダッチマン号は典型的なガレオン船の形状をしている。

②戦列艦 (18世紀〜19世紀)


18世紀に入るとイギリスで寸法規定(Establishment)が制定され、船のサイズや搭載する大砲の数が規定された。これにより、従来のガレオン船から発展したのが戦列艦(Ship of the Line)だ。それまでは全ての船が一品一様で性能がまちまちだったのに対し、この規定によって大まかな規格が統一された。

しかし、この寸法規定は設計の自由度を奪ってしまい、結果的にイギリス海軍の艦艇は他国に遅れを取ってしまう。その為寸法規定は廃止され、海軍が設計を行い造船所が製造するといった現代に近い形に落ち着く。

この様な流れによって18世紀中盤にフランスで開発されたのが74門艦だ。大砲は配置されているデッキが2層あり、約74門の大砲を搭載するこの船は火力と帆走能力のバランスが良く各国海軍で同型艦が多数建造された。

因みに、戦列艦は一般的に大砲の数で分類される。(100門艦、80門艦...など) ただしイギリスではより小型のフリーゲートを含め六等級に分けて分別した。等級は非常に分かり易いのだが、時代によって大砲の数が変化していったので、あまり使い勝手は良く無かった。

③クリッパー (19世紀)


クリッパー (Clipper)は快速帆船とも呼ばれ、スマートな船体に巨大な帆が特徴的な帆船の最終形態である。船体が小型化した為、積載量は減ったが巨大な帆は高速を発揮し、主にアジアから茶葉を欧州に輸送する際に用いられた。その為、ティークリッパーとも呼ばれる。しかし、1869年のスエズ運河開通を境に蒸気船にその役目を譲った。

クリッパー船であるカティー・サーク号(Cutty Sark)がこの博物館と同じグリニッジで保存されているので、ここを訪れた際は是非見に行って欲しい。
※カティー・サーク号の船内を見学するには入場料(大人£15、子供£7.50)が必要です。

次回予告


東インド会社の設立


あとがき



私生活が忙しく投稿間隔が遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした。失踪したと思われた方も居たのではないかと推察します。今回から3回に分けてグリニッジの国立海洋博物館について特集したいと思います。近世英国史は私の専門分野ですので、気合を入れて皆様に魅力をお伝えできればと思います。何卒お付き合いの程よろしくお願いします。

P.S. 願くば近世欧州史ファンを増やしたいな。(古今東西WW2以降の歴史が人気だけど)

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