2021年9月3日金曜日

RFA フォート・ヴィクトリア (A387) | 横須賀

 

今回紹介する艦船はイギリス海軍補助艦隊の補給艦「RFA フォート・ヴィクトリア」だ!

2021年9月現在、イギリス海軍が誇る空母「HMS クイーン・エリザベス(以下QE)」が初めての作戦航海でアジア・太平洋方面に展開している事は読者の皆様もニュースを通してお聞き及びの事だろう。

9月上旬に予定されているQEの日本寄港に先立って、8月21日にイギリス海軍補助艦隊に所属する「RFAフォート・ヴィクトリア 」が日本の横須賀港に寄港した。本日は横須賀寄港時の写真を交えてこの船を紹介する。


「RFA フォート・ヴィクトリア」はQEを旗艦とする空母打撃群「CSG21」に加わって長期に渡る航海を支えている。COVID-19パンデミックの影響で主力艦艇の寄港が出来ない事態(8月25日 QEは寄港予定だった釜山への入港がキャンセルとなった)が起きている為、洋上補給が出来る本艦は大忙しだ。

CSG21参加艦艇

  • 空母「HMS クイーン・エリザベス」(イギリス海軍)
  • 45型駆逐艦「HMS ダイヤモンド」(イギリス海軍)
  • 45型駆逐艦「HMS ディフェンダー」(イギリス海軍)
  • 23型フリーゲート「HMS リッチモンド」(イギリス海軍)
  • 23型フリーゲート「HMS ケント」(イギリス海軍)
  • 攻撃型原潜「アートフル」(イギリス海軍)
  • 給油艦「RFA タイドスプリング」(イギリス海軍補助艦隊)
  • 補給艦「RFA フォート・ヴィクトリア」(イギリス海軍補助艦隊)
  • アーレイバーク級駆逐艦「サリバンズ」(アメリカ海軍)
  • デ・セーヴェン・プロヴィンシェン級フリーゲート「エフェルトセン」(オランダ海軍)
合計10隻


イギリス海軍補助艦隊ってなに?



そもそも「RFA フォート・ヴィクトリア」が所属している海軍補助艦隊(Royal Fleet Auxiliary)という名前は日本ではあまり聞きなじみの無い名前だろう。まずはRFAの簡単な解説をしたいと思う。

日本の海上自衛隊やアメリカ海軍は給油艦や補給艦等の補助艦艇も海軍が直接管理をしている。しかし、イギリスではこれら補助艦艇はイギリス海軍とは別組織のRFAが管理・運営している。



RFAは日露戦争が行われていた1905年に創設された組織で、艦隊に燃料である石炭を補給するために設立された。この時代は船の主流が風を頼りに航行する帆船から石炭を燃やして航行する汽船に移った時期であった為、世界中に植民地を持つ大英帝国のシーレーンを守る為には艦隊が使用する石炭を世界中に届ける組織が必要となった。


質の高い英国産の石炭は英国の海洋覇権と産業革命を支えた

そんなRFAは民間の船舶や乗組員を国防省が雇う形式で始まった為、現在でも形式的ではあるが、RFAに所属する艦は国防省管轄、船員は書類上民間人という扱いになっている。その為、RFAは英国で最大の商船船員を雇っている組織となっている(2020年6月時点)。隊員の数は1625名で561名の船員、244名の士官及び下士官、820名のその他隊員が含まれている。これ以外に131名が訓練中だ。



居住環境は軍艦に比べて格段に快適で、下級船員でも個室が充てがわれ、化粧室は個人若しくは数人の船員と共用で使用する。しかし、もし戦闘に巻き込まれた場合、艦が被弾すれば積載している弾薬や燃料に誘爆する危険性と常に隣り合わせというリスクがある。

因みにイギリスでは所属する組織によって旗の色を分けている。かつて、これらの旗はイギリス海軍が分艦隊の識別に用いていたが、1864年から下記の様な使い方をしている。

  • ホワイト・エンサイン (イギリス海軍)


Naval Ensign of the United Kingdom.svg

  • ブルー・エンサイン (イギリス海軍補助艦隊)


British-Royal-Fleet-Auxiliary-Ensign.svg


  • レッド・エンサイン (商船)



Civil Ensign of the United Kingdom.svg



RFA フォート・ヴィクトリアってどんな船?



「RFAフォート・ヴィクトリア」は満載排水量33,675トン、全長203.5m、全幅30mの補給艦だ。海上自衛隊の「ましゅう型」補給艦とサイズはほぼ同じだが、艦橋構造物やヘリ格納庫が巨大な為、外見が大きく異なっている。



スライディング・ステイ対応の補給ステーションは左右に2基ずつ計4基あり、これらの補給ステーションは液体と固形荷物共用で、左右のステーションを用いて2隻に対し同時に補給が可能だ。また、非効率ではあるものの、荒天時は艦尾から補給を行うことが出来る。




そして、本艦の特徴は何といっても航空機運用能力の高さだ。「AW101マーリン Mk.4」ヘリコプターを4機運用でき、緊急時には「BAe ハリアーII」の発艦も可能だ。この艦における搭載ヘリコプターの役割は主に3つある。

1.Maritime Intra-Theatre Lift (MITL)

:物資や人員を陸地と艦隊の間で輸送する任務

2.Vertical Replenishment (VERTREP)

:物資をほかの船に輸送する任務。補給ステーションと併用することで短時間での補給作業が可能

3.海兵隊運用能力

:「マーリン Mk.4」にはフル装備の海兵隊員24人を運ぶ能力がある為、作戦地域へ部隊の展開や回収作業が可能

今後の展望

1996年就役の本艦は今年で艦歴25年となる古参の部類(同型艦のRFA フォート・ジョージは2011年に退役済)だが、2014年にエンジンのリペアを含む大規模な改修工事を行い、イギリス海軍補助艦隊は本艦を2029年まで使用する予定だ。

そんな中、イギリス国防省(MoD)は次期補給艦の設計に関して15億ポンドの競争入札を行うことを発表した。2021年5月から再開された入札では4つのコンソーシアムにそれぞれ500万ポンドを支給し、提出される設計案は「調達能力」及び「社会貢献(英国での雇用の創造)」の2つのフェーズで評価が行われる。勝者は2023年5月頃に契約獲得、2032年までに3隻を納入する計画だ。

イギリス海軍補助艦隊の次期補給艦がどんな姿になるのか、今後の展開に目が離せない。


海上自衛隊 吉倉桟橋


[宣伝] YOKOSUKA軍港めぐり



今回、横須賀に入港した「RFA フォート・ヴィクトリア」を撮影するにあたり、株式会社トライアングルが運航する「YOKOSUKA軍港めぐり」を利用させて頂きました。船内からは写真撮影が自由にでき、毎回異なる解説が聞けるのが魅力な45分間のクルーズです。

現在、横須賀市のCOVID-19感染者数増加に伴い運休中ですが、再開されたら是非ご利用してみてください。





あとがき



5月22日にイギリス ポーツマス軍港を出港したQEの横須賀入港が刻一刻と迫る中、日本では依然としてCOVID-19が猛威を振るい、先の見えない混迷な世の中に突入しています。
もし、COVID-19パンデミックが終息していたら、艦内見学等のイベントが催された可能性がありましたが、今の現状を見ると残念ながら難しいのかもしれません。


参考サイト

ROYAL NAVY


NAVY LOOKOUT


参考文献


  • 「J Ships(2021年8月号 Vol.99) 護衛艦メカニズム図鑑」イカロス出版 雑誌:15167-08